【表紙】 目連尊者地獄めくり  宇留藤太夫直伝 そも〳〵日本やまとのくに。つぼさかでら【壷阪寺】のによいりん。くわんおん のごてんぎを。くわしくたづねたてまつるに。むかし〳〵五天ぢく【古代インドを東・西・南・北・中の五つに分けた総称】 だんとくせん【檀特山=弾多落迦山】ともふするにしゆつせなさしめ給ふ。みほとけ 一たい【一体】おはします。御名をきやうしゆ【教主】。しやかむにによらい【釈迦牟尼如来】 と。申たてまつる。おふくの。みてらをもち給ふ。およそ八万人 ともきこへたり。八万人のそのうちを五百人よりいだし。五百 らかん【羅漢】と申なり。五百らかんのそのうちを。十六人よりいだし。 【検索用:もくれんそんじやぢごくめくり/もくれんそんじゃじごくめぐり】 十六らかんと申なり。十六らかんのそのうちを。すぐり〳〵て七人 を。七仏らかん申なり。七仏らかんのその名をば。きむらわう。わしやむら わう。あなんそんじやに。まかせうふるな。しやりほつ。もくれんは一 のみでしとよばれたり。こゝにあわれをとゞめしは。もくれんそんじや にとゞめたり。そんじやあるひの事なるが。しやかむにによらいに。 うちむかひ。つれともだちを見ますれば。ちゝもあれは。はゝも ありわれも。をでしとよばれなから。ちゝもなけれは。はゝもな し。いつくにこそはましますぞ。しらせ給われによらいさま とたつてねがわせ候へは。しやくそんこたへてのたまはくなんじがちゝ と申するは。しやばにありしそのときは。とう天ぢくのあるじにて。 名をば。ようぼん大王と申て。いせゐのみかどでありしゆへ。かみ や。ほとけにこくよふあり。たかきところにどうをたて。ひんなる ものには。しよくをあたへさむきものには。きるものをきせ。なん ぼか。すくはせ【救わせ】給ひける。ぢひだい一の大王も。しやばのならひの ことなれば。四十九才を一ごとして。ついにむなしくなり給ふ。 しやばをはなれて。すへのよは。これよりさいほうこくらくの。 みだのじやうとうがすみか也。こくどの。くわしさんかいのちんみ。百み のおんしき。あたはりて。はすのれんげにのり給ふ。これがなんじの ちゝなりと。かたらせたまへば。もくれんは。ちゝのすみかはありかたし。 はゝうへさまはなんとなる。しらせたまはれ。によらいさまと。たつ てねかはせ候へば。しやくそんこたて給はく。なんじがはゝのゆくす へをきかんむかしがましぞかし。さりながら。ゆめばしかたらん。きゝ 給へ。なんじがはゝと申するは。名をばしよさいふにんと。申て よふほん大王の。一のきさきで候へ共。ちゝのこゝろと。引かへて けんどんじやけんのなぐさみに。あねみそねみ【コマ17にもあり】がたへやらず。 ちゝの御くよふなされたる。どうとうとうがらんに。ひをつけて。それをそ の日の。ゑいぐわとしだいかいの。ふねをわり。小川のはしを。きり おとし。それをその日のゑようとし。ひんなるものをおとしめて。 よき人を見る時は。あてみそねみがたへやらず。よきそうの。 けさや。ころもをみる時は。あれがほしや。もくれんに。きせませう。 ほしい〳〵の。つみとがは手にはとらねど。心のぬすみ。ちりがつも りて山となる。いさご長しで岩となる。むぐらのしづくが。川と なる。かゝるあくにはくらせ共。五十二才が一ごとなり。しやうじはな れて。すへのよは一百三十六ぢごく。めぐり〳〵て今ははや。八万 ぢごくの。かまそこに。ときをあらそひせめり【ら】るゝ。これがなんじ の。はゝなるとかたらせ給へば。もくれんは。ちゝのすみかはありがたし。 はゝのすみかをきくときは。このみはあるにあらればこそなに とそ。によらいのおんぢひに。ぢごくめぐりをさせ給へ。はゝにたい めんいたすなら。いかなるによらいのほうべんにて。うかませ給ふ 事もあろ。七日ひまを給われと。たつてねがはせ候へば。 しやくそんこれをきこしめし。しん〴〵かう〳〵のこゝろざし。のぞみ のごとくいたすべし。さりながら。中々七日のひまにては。ちごくめぐりは なりがたし。七日に八日をあひそへて。上十五日のひまをゑさすべし。 ぢごくのめぐりをいたされよと。おふせいだきせ【いゝぎせ?】候へば。もくれんそんじや のことなれば。こはありがたきしだいかな。さらばぢごくへいそがんと。がく もんしよへといり給ふ【?】。ぢごくめぐりのしよぞくてには。はだにはしろき かたひらて。からのころもにからのけさ。おひ【笈?】にはあまたのおん きよを。したゝめてかたにかけ。こひしきみてらを。たちいでゝ ぢごくをさして。いそがるゝこころざしこそ。あはれなり    第二 かくてそのゝち。ぢごく〳〵はおふけれど。一百三十六ぢごくどれ におろかはなけれ共。とりわけにんどう。しゆらたうがきちくしやう だう。こんやぢごくに。かぢぢごく【注1】むけんぢごく。三ねつちのいけ。とた てぢごくとう也とたてぢごくのくるしみは。天にはごうほうのあみを はり。ちにはらんくいのけんをうち。四ほう四めんと申るに。くろ かねのとびらを丁とうち。その中ほどへざいにんを。おいこんで。四つの とびらを。うつときはこたまもひゞくごとく也。又つみふかきざいにんは。ち のいけちごくへおくる也。ちのいけちごくのせつなさは四万よじゆん【由旬=ヨージャナ、長さの単位。ゆじゅんとも読む】 なり。はゞも四万よじゆん也。八万よじゆんのそのいけに。いとよりほそ きはしをかけ。あまたのざいにんをめしよせて。このはしわたりむかふ のきしにつくならば。じやうぶつをとぐべしと。せめおこなふあまりせめ るがせつなさに。わたらんとすればはしはほそし。みはおもしまん中ゟ もふつときれ。からだはあくだうへしづむ也。たけとひとしきくろかみは。 たゞうきくさのことく也。ときにおに共申よふ。この水のみほせ。 【注1:紺屋地獄、鍛冶地獄は別府温泉の源泉の名前。またコマ5にある八万地獄は無間地獄の同義語でもあり、雲仙にそういう名前の温泉が湧く場所があり、修験僧が地獄について説く際に話題にしたらしいです。】 かへほせとせめおこのふ。あまりせめるかせつなさに。のまんとすれば みずはくわゑんともへ上る。かへんとすれば水はいわとへんじたり。つみふか きざいにんは。くぎのぢごくへおくる也。くぎのぢごくのくるしみは。まづ にんげんす人に【すへに?】。四十九本のくぎをうつ。うたれしところはどこ〳〵そ。 かうべに三本めに二本。りよのかいなに六つのくぎ。むねとはら とに十四本こしゟあしにいたるまで。廿四本のくぎをうつ。さて かうべ三本のそのとがは。おなじぶつほうのよにいでゝ。天たうさまを いだいて。やみ〳〵とあかしくらしたそのとが也。りよがん日本の そのとかは大のまなこにかどをたて。おやをにらんだそのとがなり。 りよのかいなに六つのくぎ。人のたからに手をかけてぬすみいたせ し。そのとが也むねとはらとの十四本。わつかむね三寸のそのした に。あきれるぢまんがしやう【?】の心をおこした。そのとが也こしゟしも の廿四はおなじぶつほうのよにいでゝ。ちかきおてらへも。いちさの【一座の=一社の】 さんけいもせぬそのとが也。このくぎ一本も。ぬけるよしみはなけれ ども。四十九日と申するに。一けゝんぞくあつまりてによらいに。かうげ【香華】 をくよふして。なげきかなしみよろこべば。四十九本のそのくぎは みな〳〵のかれてこくうゟみだの。ぐせいのふねがあまくだり。 ふねのへさきにはしやかによらい。中は三つのみだによらい。なむの 六字のほをあげてかうめうはなつてさい人をてらし給へはみな〳〵うかみあがりて。こくらくへおくり給ふ也。ありかたかりける。しだいなり。    第三 かくてそのゝち。もくれんそんじやのことなれば。いそがせ給へは今は はや。しやばとめいとのさかへなる。三つの大が【大河】しでの山。これも ぢごくのくるしみあり。もくれんそんじや今ははやみつの川に つき給ふなにとわたらんよふなくて。しばしあきれておわします。 はるか川上を御らんあれば。そのたけ廿丈ばかりなる。大じや 一すじうかみいで。九万八すいのうろこをたて。十二のつのをふるひ たて。くれないのしたをまきそんじやのまいにながれくる。そんじや このてい御らんじて。おひ【笈】の中より御きよをとりいだし。ほけきよ 一ぶ八くわん。廿八ほんこまやかに。どくじゆし給ひて大じやに。な けかけ給ひける。ふしぎやこの大じや。ぐぜいのふねと。てんじ かわれば。そんじやこのてい見るよりも。なむあみだぶつ と。うちのりてろかいせんどは。なけれ共むかひのきしに。つき 給ふそんじや。ふねゟあがらせ給ひ。あとを三どらいはいし。 すへのぢごくといそがるゝ。いそかせ給へばこはいかに。しやばでも かくれししでのやま。なんとのぼらんよふもなく。しばしあき れておわします。しでのやまじのくるしさは。岩やりとうけが 百十丁。このとうげのありさまは。大ばんじやくがはるかちうゟ。 ふりかゝるしやばてたとへて申なら。あき風にこのはをちら すごとく也。こゝろもことばも。およばれず。もくれんそんじや のことなればおいのなかよりおんきよをとりいだし。一しやふくとくほん 天【一者不得作梵天】二しやたいしやく【二者帝釈】三しやまいふ【三社魔王】四しや天人【四者天輪】。五しやふんしん【五者仏身】とお【法華経提婆達多品の一節が変化したもの】 ときなされて候へば。こはありがたやちりふるごとくのばんじやくもはる かちうゟとゝまりて。そんじやはなんなく。こし給ふすへのちごくと。いそ かるゝいそかせ給へば。こはいかに火ふり峠が百十丁。こゝろもことばも およばれず。おいの中ゟおんきよを。とりいたしはうとはんにや【方等般若】。だい はんにや【大般若】やくしのおんきよ【薬師の御経】。十二くわんとなへたまへば。かたじけなや火 ふりとうげのなんもこへ。すへのちこくといそがるゝ。いそがせたまへは こはいかに。つるぎのとうげが百十丁。つるぎのとうげのありさまは。 天もちもゆんても。めでもつるきでかためた。とうげ也。こゝろもこと ばもおよばれず。もくれんそんじやのことなれば。おいのなかより。 おんきよをとりいだし。天だいきよ七十くわん。はんにやきよ。六 十くわん。ふどうのじゆもん【不動の呪文】を。こま〴〵ととなへ給へば。かたじけ なや。つるぎのとうげのなんもこへ。すへのぢごくといそかるゝ。い そがせ給へば。こはいかに。くらやみとうげが百十丁。こゝろも ことばもおよばれず。もくれんそんじやのことなれば。おい のなかゟおんきよとりいだし。かうみやう。へんじやう。十ほう。せかい。【光明徧照 十方世界】 ねんぶつ。しゆじやう。せつしゆ。ふしや【念仏衆生 摂取不捨】とおんとき。なされ候へば。 かうは。ひかると。いふじ也。みやうは。月日の二たい也。大日そん天。いとく のひかりを。あざやかに。しやばにもかくれししでのやま。四百 四十丁の。大なんのくるしみも。おんきよのくどくのありがたや。そん じや。なんなくこゑ給ふ。すへのぢごくと。いそがるゝ。いそがせ給へば。 こはいかに。しやうずがばゝ。と申すあり。ぢごくへおつる。その ものゝ。しろかたひらを。はきとつて。ぢごくへおくる。やくめなり。 さてそのすへは。見るめかぐはなとて。ぢごくへおつるそのものゝ。 とがのしだいを。かきわけて。ぢごくへおつる。やくめ也。もくれんそん じや。今ははや。しやうづか。ばゞに。つき給ふ。ばゞはそんじやに申 よふ。ころもをぬぎて。この木にかけ。ぢごくへゆけと申ける。 そんじや。このよし。きこしめし。われはぢごくへおちはせず。天ぢく。 だんどく。せんの。しやかによらいの。おんでしに。もくれんそんじやと。申 そのものなるが。しやばで。つみをふかくして。八万ぢごくへおち 入たる。はゝのくるしみ。たすけんため。しやかむにぶつの。ほう へんにて。しやば□【の?】。ありさまの。そのなりにて。これまで。たづ ねきたりしと。かたり給へば。しようづかばゞ。さて〳〵。かうしん のおんそうや【御僧や、コマ13にもあり】。とをらせ給へと申ける。そんじやは。よろこび。れ いをのべ。すへのぢごくと。いそがるゝ。いそがせ給へば。こはいかに。見るめ かぐはな申よふ。かうしん也もくれんよ。はや〳〵ゆきて。はゝ うへを。たすけ給へと申ける。もくれんそんじやのことなれば。 こはありがたき。おふせかなと。見るめかぐはな。れいを のべすへのぢごくへ。いそがるゝ。ま事に。あやうき。事共なり    第四 かくて。そのゝち。もくれんそんじや。の事なれば。みちをはやめて。 いそがるゝ。いそがせ給へば。今ははや。六どうのつぢにいで給ふ。そのみち 六すじゆへ。いづれのみちが。八万ぢごくやら。しはしあきれて。おはし ます。はるかむこうゟ。六だうむけんのしやくぢよもち。すみ のころもを。ふうわつとめし。なむぢぞうぼさつきかゝり給ひ。 もくれんそんじやに。うちむかひ。おふせられて。のたまはく。もく れんはしやかのみでしの。そふなれば。じんづうも。あるべき。はづ なれ共。いまだしやばを。はなれん人なれば。みちをおしへて。まいら せん。ゆんでの小みちを。ゆきたまはゞ。八万ぢごくへ。まつすぐ也はやく ゆきて。はゝうへを。たすけ給へと。いゝすてゝ。すきゆき給へば。もく れんは。おんあとをふしおがみ。おしへのみちを。いそがるゝ。いそがせ給へは。 今ははや。八万ぢごくへつき給ふ一百三十六ぢごく。どれにおろかは なけれ共。とりわけ八万ぢごくのくるしみは。くろがねのとびらに。てつ のもん。十五むかひにたちちがひ。もくれんそんじやの。ことなればもん をひらかんよふなくて。しばしあきれて。おわします。一百三十六ぢごく。 のあるじをば。ゑんま大わうと申す也。そんじや。ゑんまに。うちむかひ。 われは。天ぢく。だんどくせんの。しやかにょらいの。おんでしに。もくれん そんじやと。申すもの也。われらがはゝ。しやばにありし。そのときに。 おふくの。つみをつくりしゆへ。今このぢごくにおち給ふはゝのくるし みたすけんためこれまでたづねきたりしが。もんかたくして。 いる事ならず。なにとぞ。大わうのなさけにて。とびらをあけて たび給へとねがひたまへば。ゑんま大わう。かうしん也もく れんよさらばとひらをひらかすべしと。八まんぢごくの。しん かをば八めん大わうと。申す也。おもてが八つ。めが六つ。あしが六本 手が八本。おそろしなんども。おろか也。ゑんまは。八めんよびいだ し。とびらをひらけと。申ける。うけたまはり候と。とびらをさつ と。ひらきける。そんじやはゑんまにれいをのべ。八万ぢごくへ。いりたもふ。 八めんは。かまのゑんざへとび上り。ふたうちあけて。かまなかを。うち まはし〳〵。くろこげの。はゝうへを。かなぼうにつなぎ上。これが。おん そうの。はゝなるぞ。たいめんいたせと。申ける。そんじやは一見御 らんじて。ものをもいわず。めもあかず。なくもなかれず。こは いかに。なにとそ。大わうの。おなさけに。しやばのすがたで。みせ給へ。 とたのませ給へば。八めんは。やすきおふせで候と。すぐさま。はゝ を。ひきよせて。くちにじゆもんを。とのふれば。たちまち。しやば の。すがたとなり。かげろうのよふなる。はゝうへを。そんじやのまへに。 なをしける。そんじやは。はゝにとりすがり。いかなる。つみのむくいにや。 かゝる。ぢごくに。おちいりて。ひまなく。くるしみ。給ふ事。まことに。あ さましき。しだいかな。とさめ〴〵となげかるゝ。はゝはもくれんに。とりす かり。いかに。わか子の。もくれんよ。なんのむくいで。このよふな。くるしい ぢごくへは。おちたぞや。はやくきかせと。ありければ。われはぢごくへ。おち はせず。しやかむにぶつの。ぢひにゟ。しやばのありさまの。そのまゝ にて。はゝのくるしみ。たすけんため。これまで。たづね。きたりしなり。 とかたり給へは。はゝうへは。さてはさよふに候か。けんどんふかき。われら【コマ17にもあり。単数の自称に使われる場合はやや卑下したニュアンスを含む】 をば。はゝとうやまひ。このよふな。くるしみふかき。ぢごくまで。たつね きたりし。うれしさよと。おや子手に手をとりかわし。ぜんご。ふか くに。なけかるゝ。あわれといふも。おろか也。八めん大わう。こへをあげ。 いざかへらせ給へ。もくれんよ。ときのせめとき。おそくなる。はやしゆら だうの。たいこかなると。はゝの小かいな。かいつかみ。八万ぢごくのかま そこへ。なんのくもなく。なけこんだり。そんじやは。あるにあらればこそ。 こはなんとなる。かなしやと。しばしなきいり。いたりしが。や【やゝ?】あつて。なみだ をはらひ。七日七よさ。なきいたとて。はゝをたすけん。てだてなし。 はやく。くにたちかへり。このありさまを。のこりなく。しやかむ に。によらいに。もふしあげ。なにとか。ほうべんを。さづかりて。又候【またぞろ】。こゝに。 きたらめと。はゝをぢごくに。見のこして。だんどくせんへと。かゑらるゝ もくれんそんじやの。こゝろのうち。おしはかられて。あわれなり    第五 かくて。そのゝち。もくれんそんじやの。ことなれば。八万ぢごくの。はゝ【はゝが?】みを。 あとに見のこし。あしばやに。だんどくせんへかへらるゝ。みちにさわりも。 あらざれば。だんどくせんにつき給ひ。しやかむに。ふつに。うちむかひ。みほとけさまの。ぢひにゟ。ぢごくめぐりを。つかまつり。はゝ のくるしみ。見かけし。ところ。なか〳〵。たすへる【たすける?】。てだてなし。なにとそ。 ほとけの。おんぢひに。おんきよ。くよふあそばされ。ふたゝひぢごく へやり給へと。みをもだへてぞ。なげかるゝ。によらい。このよし。きこしめし。 さらば。千ぶせがきを。おこなふて。ゑさすべし。二たびぢごくへ。ゆき 給へと。千ぶせがきを。なされけり。あまたのおんきょを。したゝめて。 もくれんそんじやに。下さるゝ。そんじやこれをいたゞきて。こはありが たき。しだいかな。へんしも。はやく。いそがんと。あまたのおんきよを。 おひづるに【笈摺に?】。したゝめてかたにかけ。こひしき。みてらをたちいでゝ。 八まんぢごくへ。いそがるゝ。いそがせ給へば。ほどもなく。八まんぢごく に。つき給ふ。もんのとびらに。とりついて。そんじやとびらを。おし ひらき。かまのほとりへたちよりて。おひの中ゟおんきやうを。 とりいだし。によにんの。うかむ。れんげきやうや。ほけきやうを。かまのなか へ。なげこみ給へば。ふしぎなるかな。八まんぢごくの。大かまは。八つに われて。八よふの。れんげと。てんじかわりて。なかゟかうめう【光明】かゝやきたり。 かけろうの。よふなる。はゝうへも。はすのれんげに。のり給ひ。うかみ上 らせ。候へば。もくれんそんじや事なれば。こはありがたき。しだいかなと。 よろこび給ふぞ。どうり也。だんどくせんのしやかによらい。せんぶ せがきの。とむらひに。はゝうへばかりに。あらずして。一百三十六ち ごく。うざゐ。むざゐの。がきどうまで。みな〳〵。うかみ上りける。 ゑんまほうわうを。はじめとし。八めん大わう。ごづ。めづの。あほう。 らせつ【阿傍羅刹】に。いたるまで。みな〳〵なみだを。ながしける。おにのめにも。な みだとは。このときよりぞはじまれり。はゝは。れんげのうへよりも。わ が子の。そんじやに。のたまふよふ。はゝのたすかる。そのために。おん きやう。くよふなされしに。よのざい人も。うかむ事。われらは。ねた ましくおもふなりと。申され給へば。もくれんは。このたび。じやう だうへ。まいるみが。さよふな事をのたまふては。石をいだいて。 ふちに。いるとはこの事也。あやまりはてゝ。ねんふつを。申さ せ給へはゝうへと。ひたすらすゝめ給ひける。かゝるところへ。こくふより だんどくせんの。しやか。によらい。むらさきの。くもにうちのりて。かうめう はなつて。あらはれ給ひ。もくれんそんじやに。のたまふは。これもくれんよ。 おんきよの。くりきにて。はゝはうかみ。上れ共。いまたかうざゐたへす して。あねみそねみがつよきゆへ。又候ぢごくにきわまると。おふせ いだされ。候へば。もくれんそんじや。のたまふに。はゝうへさまの。みがわり にそんじやをぢこくへ。いれ給ひ。はゝをじやうとへやり給へと。みをもた へてぞ。なげかるゝ。しやくそん。これを。きゝ給ひ。ま事に。かうしんが。 ふびんさに。はゝはぢごくのくを。さつて。につぼん。やまとのくに。つぼ さかでらの。によりんくわんおんとふんじこめて。ゑさすべし。あまねく。 しゆじやうを。まもるべしとのおふせ也。はゝのうかませ給ふ。そのと きは。しかも七月十六日牛のこくと。申するに。つぼさか。でらへいり 給ふ。そも〳〵七月十六日を。うらぼんゑとなつけて。いわひのおどりを。 はじめける。さておどりの。しよそくはあまちやのかたびら。そふめん のおび。はすのはの。かさにて。かをゝかくし。おとりしことは。すへのよの。 によにん。いましめのためなるべし。つぼさかでらの。こでんぎを。よみ上奉る    浄土道行    宇留志藤作 そも〳〵ぜんあく。ふたつのものがたり。ぜんはほとけのふせふあり。 あくをいましめ給ひける。天のあるしはしやかによらい。八せん 八たびのごにうこく。のちに五百の大くわんは。しゆじやうさいど のそのためなり。又ちのあるしはみだによらい。六十のほんぐわんを なされたり。そのうち十二のほんくわんを。つまのやくしにふぞく あり。のこりて四十八ぐわんはまつ。ほう【まつぽう=末法】あくせのぼんぶにんを。 こと〴〵く一どは。ほうだうのゐんにひきいれて。ほとけになさん そのために。こゝろをこめてなされたり。われらがつねのあり さまは。ぜんともふせばとふざかり。あくともふせばすゝむ也。むやくの つみとかつくるゆへ。なにとてごせいたすからん。はらをたつるも みよりいで。又いかるゝもみよりでれば。おにとてほかにな けれ共。こゝろでこゝろを。まよいするこゝろの。おにがせめ くれば。われとのりゆくひのくるまたゞ。はかなきはしやばせかい。このよはわづか五十ねん。ながらへて七十ねんとは。申せ共 らうせうふせうと【老少不定】。あるからはこよひもしれぬ。わかいのち かぜのまへの。ともしびがほんのふぐそく【煩悩具足】。そくぼだい【即菩提】つゆに やどとる。いのち也あさかほはおひをまてどひかげを。またん しやばせかいしかれば又。なんぢらもしやばへにんけんと。うまれしは 一せや二せの。ゑんならす六どむすんで。おとゝとなる七たひ。ち ぎりてあにとなる。千たひちぎりて。おやとなる一おんがうの ぜんゐんにて。人のかたちをなす事は。おぼろけならんゑんぞかし。 たゞはかなきは。しやばせかいきのふまでは。人のほだいをと いしみが。けふはわがみが。とわるゝみとなりて。しやばのからだ を。はなれてはのべの。けむりとおくらるゝ。のおくりまではしやば のならひの事なれば。一けけんぞくあつまりて。なげきかなしむ かひまなく。のおくりすんでそのすへは。さきを見ても人もなし。あ とを見ても。とものふ人もあらざれば。たゞすご〳〵とわれひとり。 しでの山じを。ゆきなんずれされば。にんげんはたのみおくべきは。 ごせふ也なむあみだぶつに。おくられてみだのじやうどうへ。まい るなりおもひ〳〵は。かわる共こゝはわつかの。かりのやどみらいは なかき。すみかぞときがつくならば。たれ人もいそいでどせを。ね□【ご or が】ふべし。 【後表紙】