【横書】 TKGK-00130 書名  鼎左秘録并附録 刊   1冊 所蔵者 東京学芸大学附属図書館 函号  596.1/Ko43 撮影  国際マイクロ写真工業社 令和2年度 国文学研究資料館 【題箋】 《題:鼎左秘録》 【右丁】 国華山人著 【仕切り線】 鼎左秘録《割書:幷|附録》 【仕切り線】 帝都書肆 尚書同梓 【左丁】 序 今般余か述る所の鼎左秘録なるものは余か弱冠の とき家父の命を奉し四方に漫遊せしとき西州の 異人長氏なるものより伝る所の青物砂糖漬の伝書 にして風流喫茶の客座右一日も欠へからさる 珍書なり此書一本を懐中すれは後園に有合 松のみとりあるひは小池に生したる蓮の根なと ほりとりてやかて砂糖をもて製すれは咄嗟の間 【右丁】 天上の醍醐味も指顧の間に調すへきなるされは雪 月の窓春花の下にて故旧相対し煙を吸ひ炒 豆をかみて時事を談するときにあたりて酒茗と 三分鼎峙すれは則これ昇平の一大楽事に あらすやと云爾         たにはの国亀の山かけに住る  嘉永五年春          国華陳人題 【左丁 文字無し】 【右丁 文字無し】 【左丁】 鼎左秘録    目 録 青物(あおもの)砂糖漬(さとうづけ)の法(はふ)   初丁  生姜(しやうが)  二丁    天門冬(てんもんどう) 二丁  松(まつ)の緑(みどり) 同    仏手柑(ふしゆかん)  三丁  金柑(きんかん)  三丁    茄子(なすび)  四丁  蓮根(れんこん)  四丁    笋(たけのこ)  同  黄瓜(きうり)  同     朝瓜(あさうり)  同  冬瓜(かもうり)  同     西瓜(すいくは)  同 【右丁】  牛蒡(ごばう)    五丁  人参(にんじん)  同  百合根(ゆりね)   同   空豆(そらまめ)  同  麦門冬(はくもんどう)   同   独活(うど)  同  茗荷(めうが) ̄の子(こ)  同   豆腐(とうふ)  同  椎茸(しゐたけ)    同 附録目次  煉羊羹(ねりようかん)の方 六丁   朧羊羹(おほろようかん)の方  同  餡(あん)の方   七丁   同 方 同 【左丁】  カステイラ 八丁   中華饅頭(ちうくはまんちう)  九丁  薯預饅頭(じよよまんぢう)  九丁   葛饅頭(くずまんぢう)  十丁  洲浜糕(すはまかう)   十丁   《割書:米の粉の法|煎し砂糖》  十四丁  求肥糕(ぎうひかう)   同    益寿糕(えきじゆかう)  十一丁  白雪糕(はくせつかう)   十二   養命糕(やうめいかう)  十三  落雁糕(らくがんかう)   十四   求肥飴(きうひあめ)  十四  金絲飴(きんしあめ)   十五   同 二番(にばん)  十五  水菓子(みつぐはし)花餅(はなもち) 十六   若菜餅(わかなもち)  十七  柘榴餅(ざくろもち)   十七   山椒餅(さんせうもち)  十八 【右丁】 南蛮餅(なんはんもち) 十八     小倉野(おぐらの)  十八 真盛豆(しんせいまめ) 十九     味噌松風(みそまつかぜ) 十九 砂糖蜜(さとうみつ) 廿      あげまき 廿 寒晒粉(かんさらしのこ)製方(せいはう) 廿六  炒米(いりこめ)   廿六 蓮玉子法(はすたまごのはふ) 廿七    鮒淀川煮(ふなよどがはに) 廿七 諸魚類骨(しよぎよるいほね)とも和(やは)らかに煮る法 廿七 肴(さかな)を寒水(かんすい)に漬(つけ)る法     廿七 煮(に)ぬき玉子の法         廿七 風流(ふうりう)すひもの  廿八   又方 同 【左丁】 辛螺(さゞい)の実(み)ぬきやう       廿八 同 つほ焼(やき)の法        廿九 長命酒(ちやうめいしゆ)            卅 山(やま)の芋(いも)結(むす)ひ法         同 山葵(わさび)なき時(とき)早速(さつそく)わさひ造(つく)る法 同 湯(ゆ)香煎(がうせん)の方          同 漬(つけ)雪花菜(きらず)の法         卅六 柚青(ゆのあを)づけの法         同 手製胡麻(しゆせいごま)の油(あぶら)の法       同 【右丁】   松茸(まつたけ)のたくはへの法        卅七   柿(かき)のたくはへの法         同   辛味大根(からみたいこん)のなき時(とき)からくする法   同   餅(もち)にかびの出(いで)さる法        同   酢(す)に白衣(かひ)の生(しやう)せざる法      同   弁当重箱(へんたうちうはこ)に煮(に)たる物(もの)入て移香(うつりが)せぬ法《割書:幷》損(そん)ぜぬ法 三十八   夏日(なつのひ)酢(す)又 梅酢漬(うめすづけ)にかびを出さぬ法  卅八   酒(さけ)もちの悪(あし)き陶(とくり)をよくもたす法  同   胡椒(こせう)を粉(こ)にする法         卅九 【左丁】 ○諸雑門   水上(みつのうへ)に墨(すみ)にて文字(もし)を書(か)く法       卅九   白紙(しらかみ)を火(ひ)に炙(あぶ)りて文字(もし)をあらはす法   四十   白紙に火(ひ)をつけ文字(もじ)ほりぬきになる法   同   白紙を水(みづ)につけ白(しろ)き文字(もじ)あらはるゝ法   同   煎(せん)じたる茶(ちや) 茶碗(ちやわん)の中にて水(みづ)と分(わか)る法   同   竹筒(たけのつゝ)に蛍(ほたる)を入れ外(そと)へ光(ひかり)を出す法     同   豆腐(とうふ)に絵(ゑ)にても字(もじ)にても書(かき)て落(おち)ざる法  同   歩行(ほこう)するとき股(もゝ)ずれを治する法      同 【右丁】   草花(さうくは)より紅粉(べに)をとる法         四十五   貝類(かいるい)象牙(さうげ)角(つの)るい生付(うまれつき)の様(やう)に画(ゑ)を顕(あら)はす法 同   光沢布(くわうたくふ)の法                 同   即席焼印(そくせきやきゐん)の法              四十六   丸竹(まるたけ)の節(ふし)をぬく術            四十七   虱紐(しらみひも)の方                同   懐中(くはいちう)らうそくの法            同   花(はな)の露(つゆ)製方               同   天井(てんせう)の絵(ゑ)を写(うつ)し取(と)る法         四十八 【左丁】   蓮根(れんこん)をかたくする法           四十八   絹布(けんふ)にどうさを引(ひか)ずして文字(もじ)ちらぬ法  同   銅道具(あかゝねだうぐ)垢(あか)つきよごれを落(おと)す法      同   割(われ)たる道具(だうぐ)つぎやう           四十九   遠路(ゑんろ)を歩行(あるき)て足(あし)いたまざる法      同   足(あし)にまめ出来(でき)ざる妙法          同   終夜(よもすから)寝(ね)ずして眠(ねぶ)らざる法        同   磁石(ししやく)の説                同   薫物(たきもの)の方  又方  又方《割書:梅花と|いふ》      五十 【右丁】   薫物(たきもの)を調和(てうくは)する蜜(みつ)の方          五十一   花生竹(はないけたけ)の切る法              五十二   朱(しゆ)を以て水銀(みつかね)を製(せい)する法         同   辰砂(しんしや)を以て水銀を製(せい)する法         五十三   朱(しゆ)から又は古朱器(こしゆき)を以(もつ)て水銀(みつかね)を製(せい)する法 同   ■■(きし)乙(おつ)の符(ふ)の説             五十四     目 次 《割書:了》 【左丁】 鼎左秘録        山陰   国華山人述【落款】    ○青物砂糖漬之法(あをものさとうづけのはふ) 一 凡(およそ)青物砂糖漬(あをものさとうつけ)の法(はふ)は先(まづ)漬(つけ)んと思(おも)ふ青物(あをもの)を随意(すいい)にきり   刻(きざ)みあるひは細(ほそ)くきり或(あるひ)は輪切(わぎり)など其 物(もの)に応(わう)じて夫々(それ〳〵)に  切刻(きりきざ)みて是(これ)をよく〳〵湯煮(ゆに)するなり   此煮湯するに少(すこ)しづゝ煮(に)かげんもあるものなれども大抵(たいてい)のものは   煮(に)へ過たるをよしとす  右のことく湯煮(ゆに)したるものをいかきにとりあげ大抵(たいてい)に水気(みつけ)  をしぼり鍋(なべ)に入其 青(あを)ものゝかさほど白砂糖(しろざとう)を入れ水を 【右丁】  五六 滴(しづく)ほど入れよくかきまぜ武火(つよきひ)にて漸々(せん〴〵)に煮(に)つめるなり  煮(に)る間(あひだ)は暫時(しはらく)も手を止(とゝ)めず攪(かきま)せ居(ゐ)るなり段々(たん〴〵)煮へ  つまりたるを見て其(その)砂糖(さとう)をつふし試(こゝろみ)るによくねばり糸(いと)  を引やうになりさ【たヵ】るところ是(これ)砂糖十分に煮(に)え熟(しゆく)し  たるなり其時 鍋(なべ)のそこにたまりある水気(みづけ)を別(べつ)の器(うつわ)へ  したみつくし其上(そのうへ)また別(べつ)に砂糖を多分(たぶん)に投(とう)し入れ  後(のち)は文火(とろ〳〵び)にてそろ〳〵と煮(に)るなり水気(みづけ)さつはり乾(かは)きて  から〳〵となる位(くらゐ)になりたるを度(ど)として別器(へつのうつは)へ取(とり)入れ  三盆白(さんほんじろ)の砂糖をふりかけよくまぶし貯(たくは)へ置(おく)なり 【左丁】  一切(いつさい)の青物(あをもの)つけやうみな斯(かく)のごとくすり【るヵ】なり   右のことく砂とうにて煮上(にあげ)ケたるものを世上(せしやう)の方言(はうけん)にさとう   づけと称(せう)する也是は右やうに煮(に)あげたることをしらすして   いふことばなり ○生姜(しやうが) 随分(すいぶん)大なる生姜をゑらみうすく輪(わ)ぎり或は  はすかひに切(きり)てよく〳〵湯煮(ゆに)し取(とり)あげ清水(せいすい)一 升(しやう)の中へ  上品(じやうひん)の石灰(いしはい)弐 合(かう)入れかきまぜ此水に二日二 夜(よ)ひたし  置とり上ケふたゝひ清水(せいすい)にてよく〳〵あらひ流(ながし)にしてその  上 前法(せんはふ)のごとく砂糖(さとう)にて煮(に)るなり   凡 辛味(からみ)のあるものは皆(みな)かくの如くすべし 【右丁】 天門冬(てんもんとう)《割書:生》 よく蒸(む)し皮(かは)をさり心(しん)をぬきさる也よく蒸(む)さり  たるときは皮(かは)よくむけるものなりさてよく蒸(む)さりたるを竪(たつ)  にわりて中の心(しん)をぬきさり是を再(ふたゝ)びよく湯煮(ゆに)してさて  早稲藁(わせわら)の灰汁(あく)一升の中へ枯礬細末(こはんさいまつ)壱両入れよく  かきまぜ此 水(みづ)に三日ひたし取(とり)あげ清水にてあらひ流(なが)し  にして其上 前法(せんはふ)のごとく砂糖(さとう)にて煮(に)つめるなり   凡 苦味(にがみ)のあるものゝ煮法(にやう)みなかくのことし   右 枯礬(こはん)のかはりに畢撥(ひはつ)にてもよしとする也 松(まつ)のみどり 《割書:但し》春の末(すゑ)松のしんに立(たち)たる物をとり用ゆべし 【左丁】  よく湯煮(ゆに)して清水(みつ)一升の中へ石決明細末(あわびのさいまつ)拾匁  石灰(いしはい)弐合かきまぜ此水に二昼二夜(ふつかふたよ)ひたしおきとり  出して清水(みつ)にて流(なか)しあらひにして其うへ前法(せんはふ)のごとく  砂糖(さとう)にて煮(に)つめるなり   凡しぶみあるもの煮法(にやう)みなかくの如(ごと)くすべし 仏手柑(ぶしゆかん) 《割書:だい〳〵の若(わか)きものを輪切(わぎり)にして|是を仏手柑と号(こう)して漬るなり》これをうすく  輪(わ)ぎりにしてよく〳〵湯煮(ゆに)し煮法(にやう)松のみどりの如くすべし 金柑(きんかん) 小刀(こかたな)にて所々(ところ〴〵)へ少しつゝ切目(きりめ)を入れよく〳〵  湯煮(ゆに)して其上 前法(ぜんはふ)の如く砂糖(さとう)にて煮(に)つめるなり 【右丁】 茄子(なすび) 《割書:いたつて小さなるものを|とりもちゆべし》小刀(こかなた)にて所々(しよ〳〵)へ切目(きりめ)を入れ  よく〳〵湯煮(ゆに)して其上(そのうへ)前法(ぜんはふ)の如く砂糖(さとう)にて煮詰る也   凡 丸(まる)なるもの或(あるひ)は大なる物 都(すべ)て小刀にて切目(きりめ)を入煮也 蓮根(れんこん) うすく輪(わ)ぎりあるひははすかひにきるなり 竹(たけ)の子(こ) 輪(わ)ぎり 黄瓜(きうり) 至(いたつ)てわかきものを輪(わ)ぎりにきるなり 朝瓜(あさうり) 皮(かは)をむき去(さ)り角(かど)にふとくきるなり 冬瓜(かもうり) 皮(かは)をむき去りほそく角(かく)にきるなり 西瓜(すいくは) 皮をむき去りほそく角にきるなり 【左丁】 牛房(ごばう) 皮をむき去りうすくはすにきるなり 人参(にんじん) うすくたんざくに切るなり ゆり根(ね) 土(つち)をよく去り黒(くろ)きはだをさるべし そら豆(まめ) 至(いたつ)て大粒(おほつぶ)をゑらぶべし兼(かね)て水にひたし置(おく) 麦門冬(はくもんどう) 其まゝよく洗(あら)ふ うど 茗荷(めうが)ノ(の)子(こ)   右十三 種(しゆ)何(いづ)れもよく〳〵湯煮(ゆに)して前法(ぜんはふ)のごとく   砂糖(さとう)にて煮(に)つめるなり 【右丁】 豆腐(とうふ) 厚(あつ)さ三四分くらゐに切り壱ツ〳〵紙(かミ)につゝみて  木灰(きはい)の中へ半時(はんとき)ばかり埋(うづ)みおき取出(とりだ)しよろしき  位(くらい)にきり前法(せんはふ)のごとく砂糖(さとう)にて煮(に)つめるなり 椎茸(しいたけ) 随意(こゝろまゝ)にほそく切り水にてあらひよくしほり前  法のごとく砂糖にて煮(に)つめるなり   椎茸(しいたけ)と豆腐(とうふ)との二品は湯煮(ゆに)するに及はず   右之外/一切(いつさい)のもの湯煮せざるものなしとしるべし 【左丁】 鼎左秘録附録             国華山人述    ○煉羊羹(ねりようかん)の方   白小豆(しろあつき)   壱 合《割書:こしあんに製し置》   雪白砂糖(ゆきしろざたう)  八拾匁   氷砂糖(こほりざとう)   弐拾匁   白(しろ)かんてん 四寸五分《割書:是は別器にて水煮|しておくなり》   水(みづ)     壱合  右五味合せて文武火(つよからずぬるからぬ)にてゆる〳〵とにるなり 【右丁】  大抵(たいてい)長日(ながきひ)なれば一時半/短日(たんじつ)なれば二時半ばかり煮(にる)也  鍋(なへ)の内(うち)にて竹(たけ)の箸(はし)にて文字(もんじ)を書(か)き試(こゝろみ)るに其文字きへ  ざるやうになりたるときを度(と)として火を徹(てつ)【撤】しうるし  塗(ぬり)の箱(はこ)にながし込(こむ)なり其まゝ冷(ひや)し置き一夜(いちや)を経(へ)  て十分にしまる也是を極上々(こくしやう〳〵)の煉羊羹(ねりようかん)と称する也  又/下品(けひん)の羊羹は氷(こほり)砂糖を用ひず又さとうをも減(へらす)へし    ○朧羊羹(おほろようかん)の方  白大角豆(しろさゝけ)をよく煮て味噌(みそ)こしを水につけ角豆(さゝげ)をすれば  肉(にく)は下へ落(を)ち皮(かは)は上にとまるなり右の肉をいさせその上 【左丁】  澄(すみ)をさり布袋(ぬのふくろ)に入れ水気を絞(しほ)りさりほろ〳〵となる  《割書:是をこし粉といふさとうを|くはへてあんといふ》此上へ引飯(ひきいひ)を三分ばかり交(ま)せ合せ  砂糖多くくはへとろりとまぜて蒸籠(せいろう)に布(ぬの)をしきよく  蒸(む)し冷(ひや)しいかやうにも切り用ゆるなり   ○餡(あん)の方   赤小豆(あづき)  一合《割書:こしあんにして置》   白砂糖(しろさとう)  八拾匁   水    一合   金糸飴(きんしあめ)  少《割書:是は幾日(いつか)へてもあんのかはりざる為也|此仕やう奥(おく)にあり》 【右丁】  右四品/微火(ぬるきひ)にて誠(まこと)にゆる〳〵とたき箆(へら)にてすくひ上るに  ばた〳〵として落(おつ)るくらゐになるまで煮(に)つめるなり   ○又方  赤小豆(あつき)をよく煮(に)て擂盆(すりばち)にてよくすり随分(ずいぶん)細(こまか)になる迄  すりて篩(ふるひ)にて漉(こ)し淪(い)させおき生木綿(きもめん)か布(ぬの)かに少しづゝ  入れかたく絞(しぼ)るなり    此しぼり粉  百目    白砂糖    百目    水      五拾匁 【左丁】   是は何(いか)ほどにても右の割合(わりあひ)をもつて用ゆる也  右/砂糖垢(さとうあか)の去(さ)りやうはよき山(やま)のいもの皮(かは)をさりて少(すこ)し  ばかり砂糖(さとう)へおろし入れよくかきまぜ水(みづ)を入せんじにへ立  たるとき暫(しば)し休(やす)ませれば砂糖のあか残(のこ)らずかたまりて  上(うへ)に浮(うく)なり其とき細(あみ)【網】杓子(じやくし)にてすくひ去(さ)れば速(すみや)かになる  なり布(ぬの)にて漉(こ)し右のさとうを煎(せん)じつめ塩(しほ)を合せ右の  しぼり粉(こ)を入れ又よき堅(かた)さに煉(ね)りつめて鉢(はち)にいれ貯  へ置なりこれ餡(あん)の極(ごく)上々のこしらへなり    ○カステイラの方   鶏卵(たまご)   壱ツ   砂糖(さとう)   拾匁   温飩粉(うどんこ)  拾匁  右三品/鉢(はち)にてよく〳〵すりまぜおき鍋(なべ)のうちに厚紙(あつがみ)を  しき其中(そのなか)へどろりと流(なが)しこみ蓋(ふた)をして蓋(ふた)の上に  は至(いたつ)て強(つよ)き火をのせ置(おき)下(した)の火はいたつてよわくして  焼(やく)なり下火はあれども無(な)きがごとくぬるき火(ひ)にて焼(やく)  べし焼(やき)かげんを見るに藁(わら)すべを一/筋(すち)鍋(なべ)の中へ  通(とを)し試(こゝろ)むべし火よく廻(まは)りたる時(とき)はすべにねばりつかず 【左丁】  火いまだ不足(ふそく)なれば蘂(しべ)にねばり付としるべし  ○カステイラ鍋(なへ)と称(しやう)するものあり赤銅(あかゞね)にて角(かく)につくりたるもの   なり大小いろ〳〵ある也/若(もし)此/鍋(なべ)なきときは一/通(とを)りの赤(あか)がねの   うすなべにて行燈(あんとう)の火ざらを覆(おほひ)に用ひてもよし    ○中華饅頭(ちうくはまんぢう)   鶏卵(たまこ)大    一ツ   雪白砂糖(ゆきしろざとう)   拾匁   うどんの粉(こ)  拾匁  右三品カステイラの方(はう)の通り能々(よく〳〵)すり交(ま)ぜたる処へ 【右丁】  水を入(い)れゆるくどろりとなるうやうに煉(ねり)まぜ赤(あか)がねの皿(さら)の  上へながし/焼(やき)にして餡(あん)をつゝむなりあんの仕(し)やう前にしるす    ○薯蕷饅頭(じよよまんぢう)   宇陀山(うたやま)の芋(いも)  百目   粳米(くるこめ)の粉(こ)   二合【うるこめヵ】   白砂糖     百目  右三/味(み)すりばちにてよく〳〵すり手をぬらし丸(まる)め餡(あん)を包(つゝ)み  布(ぬの)を水にしめし蒸籠(せいろう)にしきそれへ並(なら)べむせはふうわりと  浮上(うきあが)るなりねばりさる時(とき)をみてあげる也 餡(あん)をつゝむとき随(すい) 【左丁】  分(ふん)手(て)がつく形(かたち)よきやう包(つゝ)むべし餡(あん)は前に出す    ○葛饅頭(くずまんぢう)の法  上さらし葛(くす)の粉(こ)を葛餅(くすもち)のごとく少(すこ)しかたくねりて箸(はし)にて能(よき)  ほどに切り又葛の粉(こ)の細(こま)かなるをとり粉(こ)にして右の葛餅  を平(ひら)たくし赤小豆(あつき)のよく煮(に)たる丸つぶに砂糖(さとう)をまぶし  是を包(つゝ)み形(かたち)を饅頭(まんぢう)のごとくなし蒸籠(せいろう)にて蒸(む)し出す也    ○洲浜糕(すはまかう)   豆(まめ)の粉(こ)  一升   汁飴(しるあめ)    百目 【右丁】   白砂糖     百五十目   青 粉     見斗  右は先(まづ)しる飴を銅鍋(あかゞねなべ)にてよく煮(に)てよくとけたるとき其  まゝ豆(まめ)の粉(こ)を入れよくかきまぜ其うへゝ砂糖を入(いれ)よくかき  まぜ又/青粉(あをこ)を見はからひに入れよく〳〵かきまぜ十分に  煉(ね)り合(あは)し細長(ほそなが)く棒(ばう)のごとくに煉(ね)り上三本の竹(たけ)をもつて  はさみ洲浜(すはま)のかたちに仕上(しあぐ)るなり    ○求肥糕(ぎうひかう)   糯(うる)の粉《割書:寒さらし》 一 合《割書:水にてこねむし置》 【左丁 文字無し】 【右丁】    白砂糖      六十目《割書:別に煮て蜜になし置也》    水       一合五勺    汁飴(しるあめ)       少し  右四味/文火(とろ〳〵び)にてゆる〳〵と煮(に)るなり長日(なかきひ)なれば一時半  ほと短日(たんじつ)なれば二時半ほど手を止(とゞ)めず攪(かきま)せ煮(に)る也  右よく煮(に)たるものを別(へつ)の器(うつは)に大極上々のとり粉(こ)をしき置  其上へとろりと流(なが)し込(こむ)なり一夜を経(ふ)れば自然(しぜん)と出来上(てきあが)る也    ○益寿糕(えきじゆとう)    糯(うる)の粉(こ)《割書:寒さらし|》 一合 【左丁】    白砂糖      六十目《割書:別に煮て蜜にして置也》    汁飴(しるあめ)       五十目    桂辛(けいしん)       三分    胡椒(こしやう)       三分    清水(みづ)       一合五勺  右六味よく交(ま)ぜ合せ文火(とろ〳〵び)にてゆる〳〵手(て)をやめず攪(かきま)ぜ  にるなり長日(てうじつ)なれば一時半/短日(たんじつ)なれば二時半ばかり  煮(に)つめるなり  右の通よく煮(に)たるものを別(へつ)の器(うつわ)にとり粉(こ)をしき置(お)き其 【右丁】  上にとろりと流(なか)し込(こむ)なり一夜を経(ふ)れば自然と出来上る也    ○白雪糕(はくせつこう)    粉(こ)      百 目《割書:粉のこしらへやう落雁糖(らくかんとう)にあり》    砂糖(さとう)     八十目    煎(せん)じ砂糖   弐十目《割書:煎(せん)じさとうのこしらへは求肥糖(きうひとう)に有》  右三品よくませ合し蒸籠(せいろう)にてむす也  ○蒸籠(せいろう)の法は 餅(もち)をむすごとくして内へわくをこ□□【しら】へ   其中へ布巾(ふきん)をしきて其上へ右のませ合したる白雪(はくせつ)   糕(こう)を入るなり尤(もつとも)よくおし付て蒸(むす)なり蒸かげんは湯(ゆ) 【左丁】  気/通(とを)るか通らぬか程にむしてよき也    ○養命糖(やうめいとう)    糯(うる)の粉《割書:寒さらし|》 五 合    葛(くず)の粉     五十目    太白砂糖    五百目《割書:別にあかをさり置》    清  水    百 目  右四味/攪(かきま)ぜよくとき炭火(すみび)にて煉(ねり)つめ中ほどにて    しる飴(あめ)     三百八十目入てまた煉りつめ  大概(たいかい)仕上(しあげ)ケのとき 【右丁】   菱実(ひしのみ)      十五匁   蓮肉(れんにく)      十五匁   薏苡仁(よくいにん)     弐拾匁   山薬(さんやく)      廿五匁  右四味/極細末(こくさいまつ)にしてまぶし入また煉(ね)り合(あは)せ求肥糕(ぎうひかう)の  ごとく別器(へつき)へとり粉(こ)をしき置(おき)其上へとろりとうつしよく冷(さま)し  五六日も過(すき)て右の粉を布(ぬの)にてふきとり砂糖(さとう)ふりかけよき  ほどに切(きり)て風引(かせひか)ぬやうに箱(はこ)に入おけばいつまでもたもち  得(う)るなり 【左丁】    ○落雁糕(らくかんかう)   粉(こ)       百目   砂糖(さとう)      八十目  右/煎(せん)し砂糖弐十匁入よく交(ま)せ合せよく〳〵もみて  色々(いろ〳〵)の形(かた)に盛(もる)なり尤(もつとも)色(いろ)は何(なに)なりとも好(このみ)にまかせて  染(そむ)るなり  ○右の粉(こ)の仕(し)やうは上々/餅米(もちごめ)壱粒ツヽ択(ゑら)みてこは飯(めし)に   むしよく干上(ひあが)り壱/粒(りう)ヅヽはなれしを鍋(なべ)にて白くいり   臼(うす)にて挽(ひき)羽二重(はふたへ)にてふるひて用ゆるなり 【右丁】    ○求肥飴(きうひあめ)   米(こめ)の(の)粉(こ)     壱升   水        壱升  右よく煉(ね)り合(あは)し鍋(なべ)へ入れ炭火(すみび)にて半日(はんにち)ばかり煮(に)て其所(そこ)へ   煎砂糖(せんしさとう)一升弐合入れよく煉(ね)りて水に入つき立(たて)  の餅(もち)のやうに和(わは)らかになりたる時(とき)別器(へつき)にとり粉(こ)をしき  その内(うち)へとろりと流(なが)し込(こみ)よく冷(ひや)し色々に切り用ゆ  ○米(こめ)の粉(こ)の法 上々/餅米(もちこめ)の極白(こくはく)を水の清(す)むまで   あらひよく乾(かはか)し臼(うす)にてひき羽二重(はふたへ)にてふるひ用ゆる也 【左丁】   ○煎(せん)じ砂糖(さとう)の方 上々/太白(たいはく)砂糖壱貫目水壱升入   煎し上に渦(うづ)出(いで)しを捨(すて)て白(しろ)き渦出たるをも取すて   絹(きぬ)にて漉(こ)し又/鍋(なべ)へ入れて壱升を七合に煎(せん)じ詰(つめ)る也    ○金絲飴(きんしあめ)   餅米(もちごめ)《割書:極上白 |》   一斗   麦(むぎ)もやし    八合 《割書:うすにて細末にひく|》   湯(ゆ)       一斗五升《割書:ゆのわきかけんは|手引かけん》  先(まづ)餅米を蒸(む)し冷(ひへ)ざる内に麦(むぎ)もやしと一緒(いつしょ)に合し  湯の中にてかきまぜ桶(をけ)を藁(わら)むしろにてよく包(つゝ)み此中へ 【右丁】  入れ蓋(ふた)を能(よく)し三時ぼと【ママ】ねさせおくなり但(たゞし)加減(かげん)は手にて  にぎりしぼり試(こゝろみ)るに水ぬけて跡(あと)の餅米(もちごめ)のからはら〳〵と乾(かは)  くを度(ど)とさだめ其まゝ布(ぬの)の袋(ふくろ)に入しぼり暫(しばら)く又休せ置也  此とき枯礬(こはん)弐匁入るなり右/粕(かす)をさりし水を砂(すな)こしにする也  其/漉(こ)したる水を釜(かま)に入て煮(に)つめるなり但/煮加減(にかげん)は貝(かい)  杓子(しやくし)にて汲(くみ)て薄紙(うすがみ)のごとくになりて残(のこ)る位(くらゐ)を煮(に)かけんと  定(さだ)むる也其時/急(きう)に火を徹(てつ)【撤】し別器(へつき)に移(うつ)し入/冷(ひや)し貯(たくはへ)  置(おく)なり    ○同二番 【左丁】  一番の粕(かす)に水(みづ)をひた〳〵に入半ときばかりねさし袋(ふくろ)に入れ  再(ふたゝ)ひ絞(しぼ)り煮(に)つめるなり夏(なつ)は水/冬(ふゆ)は人はだの湯なり    ○水菓子花餅(みつくはしはなもち)   葛(くず)の粉(こ)   壱升   温飩(うどん)の粉(こ)  三合  右弐品よく交(ま)せ合し紅色(へにいろ)には紅(へに)を入れ青色(あをいろ)にはひき  茶(ちゃ)を入れ黄色(きひろ)には山梔子(くちなし)の汁(しる)を入れかたくこね花形(はながた)  色々に作(つく)りよく〳〵蒸(むら)し冷(ひや)し物(もの)の鉢(はち)に水を入つけて出す《割書:但|》小皿(こさら)  何にても極上(こくじやう)の白砂糖を入/其上(そのうへ)へ細杓子(あみしやくし)にてすくひ盛(もる)るべし 【右丁】    ○若菜餅(わかなもち)の法   蜀黍(とうきび)の粉(こ)  壱升   蕨(わらび)の粉    弐合   白砂糖    拾匁  右三品よくこねよく〳〵蒸(む)しよきほどにちぎりて青苔(あをのり)  を火(ひ)どり細(こまか)にして篩(ふるひ)にかけよくふりかけてもちゆ    ○柘榴餅(ざくろもち)の法  是(これ)は大納言小豆(だいなごんあずき)をつぶれさるやうによく煮(に)ておき又/仙台(せんだい)  糒(ほしい)をさつと蒸(む)して冷(ひや)し粉(こ)一合にさとう弐十匁入/小豆(まめ)と 【左丁】  交(ま)せ合し又/寒(かん)ざらしの餅米(こちこめ)の粉(こ)を水にて堅(かた)くこねうどん  の粉をとり粉(こ)にして平(ひら)ため右の餡(あん)を包(つゝ)みさて布(ぬの)に一ッづゝ  つゝみ口を結(むす)び蒸(む)して布(ぬの)をとる也もしこれに色(いろ)を付るには  蒸(むさ)ざる已前(まへ)に紅(べに)又は山梔子(くちなし)にて色どるべし    ○山椒餅(さんしやうもち)の法   糯米(もちごめ)の粉《割書:寒さらし|》壱合   焼味噌(やきみそ)    《割書:くるみほとよく焼也》   白砂糖     廿匁   山椒(さんせう)の粉   弐分 【右丁】   肉桂(につけい)の粉  三分   罌粟子(けし)   五勺  右六味よくこね合(あは)せ布(ぬの)にて包(つゝ)み蒸(むし)て蜀黍(とうきひ)の粉(こ)を衣(ころも)に掛る也    ○南蛮餅(なんばんもち)の法  先(まづ)上々の餅米(もちごめ)をよく蒸(む)し置(おき)むき胡桃(くるみ)を粉(こ)にして搗(つき)  まぜ砂糖をよきほど入て少(ちい)さくちぎり丸(まる)くして青緑(おをゑん)  豆(とう)をよく煮(に)て汁飴(しるあめ)にて右の餅(もち)をまふし緑豆(ゑんどう)を付て出す也    ○小倉野(をくらの)の法   赤小豆(あづき)    五合 【左丁】   太白砂糖   五百目  右は先(まづ)小豆(あづき)をよく水煮(みづだき)して十分 熟(じゆく)したる所へ砂糖(さとう)を入れ  ふたゝひ煮つめるなり尤(もつとも)水は初(はじめ)より漸々(ぜん〳〵)かはくと入(い)れるなり砂糖  を入れてのちは文武火(よきかげんひ)にてそろ〳〵と煮(に)る也よく煮(に)へ熟(じゆく)し  たるを見て火を徹(てつ)【撤】しよく冷定(ひえきり)するを待て餡(あん)を包(つゝ)むなり  此あんは前(まへ)に出(いだ)せる求肥糕(きうひかう)の餡(あん)をもちゆべし    ○真盛豆(しんせいまめ)の法   黒豆(くろまめ)  炒(いる)   白砂糖(しろざとう) 【右丁】   温飩(うとん)の粉  右三品まつ白砂糖(しろざとう)に水/少(すこ)し入/攪(かきま)せよく煮(に)どろ〳〵と  なりたる所へ炒(いり)たる黒豆(くろまめ)を入よくかきまぜ其上うどんの粉に  ゆぶく銅(あかね)の平鍋(ひらなべ)にてそろ〳〵と微火(とをび)にていりあけよく乾(かは)き  たるとき又砂糖/汁(しる)につけて取(とり)あげうどん粉をまぶし  再(ふたゝ)ひ鍋(なへ)に入(いれ)炒(い)りあげる斯(かく)すること凡五六/度(と)にて成熟(よくじゆく)す    ○味噌松風(みそまつかせ)   粳米(うるごめ)の粉    壱升   糯米(もちごめ)の粉    四合 【左丁】   白砂糖     五百目   山椒(さんせう)の粉    弐十目   味噌(みそ)のたまり  百目  右五味たんごの堅(かた)さにこね合(あは)せ布(ぬの)を水にしたし大(たい)がいに  しぼり麺棒(めんほう)にてよきほとに延(のは)し焼鍋(やきなべ)にうつし火(ひ)ぶたの  囲(くる)りに火をならべ焼(やく)也/尤(もつとも)上(うへ)の火(ひ)ばかり也よきほどに色付(いろづき)たら  ば上を下へかへして又/焼(やく)なり出来上(できあが)りたるときは蓋(ふた)のある  器(うつわ)に入おけばむさりてかげんよくなる也    ○砂糖蜜(さとうみつ)の拵(こしらへ)への法 【右丁】   太白(たいはく)砂糖   壱貫目   山のいも《割書:皮をさり|おろす》弐百匁  右よくませ合せ水四百五拾目をだん〳〵少(すこ)しづゝ入火に懸(かけ)る也  砂糖にえたちたらば火を引しばしねさせおけば垢(あか)の分(ぶん)堅(かたま)りて  上にうき上る其とき金(かね)の細杓子(あみしやくし)にてすくひとり又一たきすれ  ば垢(あか)のこらず上へうく也其/垢(あか)を取尽(とりつく)し布(ぬの)にて漉(こ)し壺(つぼ)に  貯(たくは)へおくなり○氷(こほり)砂糖のみつも右/同断(とうだん)にしてよし    ○あげまきの法   糯米(もちこめ)の粉《割書:寒さらし|》壱合 【左丁】   白砂糖     三十目  右二品よくこね合(あは)し白角豆(しろさゝけ)のこし粉(こ)に赤小豆(あつき)をよく  煮(に)て丸粒(まるつふ)にて入/砂糖水(さとうみづ)にてこね丸(まる)め右にて包(つゝ)み棹(さを)にし竹(たけ)の皮(かは)  に巻(まき)て蒸(む)し冷(ひや)して切り用(もち)ゆるなり    ○寒晒(かんざらし)の粉(こ)の製法(せいはふ)  糯米(もちこめ)粳米(うるごめ)とも極(こく)上々の白米(はくまい)を炊(かしき)して七日つけ置也  《割書:但|》二日に一/度(ど)つゝ水(みづ)をかへる七日/経(へ)て石臼(いしうす)にて挽(ひき)かすを漉(こ)し  去(さ)り又/桶(をけ)へ入二日ばかり淪(い)させ水をさり麹(かうじ)ぶたに紙を  敷上(しきあ)げて干(ほし)かため置なり幾年(いくねん)経(へ)ても虫(むし)づる事なし 【右丁】    ○炒米(いりごめ)の製法(せいはふ)  上々白米 新米(しんまい)なれば一日一夜(いちにちいちや)水に浸(ひた)し置(おき)取上いかきへ  入/水気(すいき)をよくたらし文武火(すみび)にて炒(いる)なり右/炒(い)りたりたるをその  まゝ熱(あつ)きうちに黒砂糖(くろさとう)醤油(しやうゆ)すこし入/撹(かきま)ぜよく〳〵  まぶし蓋(ふた)をして少しも気(き)のぬけざるやうに覆(おほ)ひ置(おけ)は暫(ざん)  時(じ)の間(ま)にはら〳〵と乾(かは)き上りて誠(まこと)に絶妙(せつめう)の好味(こうみ)となる也  尤(もつとも)黒豆は別段(へつたん)に炒(い)り置て一所(いつしよ)に撹(かきま)ぜ入れるなりこれも  あつき内(うち)に一所に入るべきなり    ○蓮玉子(はすたまご)の法 【左丁】  竹の箸(はし)の先(さき)を尖(とが)らして蓮(はす)の巣(す)の中(なか)の糸(いと)をよくとり  鶏卵(たまご)にうどんの粉(こ)に醤油(せうゆ)すこし和(くは)しよく〳〵交(ま)せ合(あは)し右の  蓮(はす)の巣(す)の中へながし込(こむ)なりさて鍋(なべ)に湯(ゆ)をたぎらしこれを  湯煮(ゆに)し煮(に)へかたまりたる時/輪(わ)ぎり又ははすかひに切(き)り用ゆる也    ○鮒淀川煮(ふなよどがはに)の法  鮒(ふな)弐三寸より五六寸/位(くらゐ)まての魚を凡(およそ)長日なれば二/時(とき)斗  短日ならば三時ばかり酒(さけ)に浸(ひた)し置なり尤/鱗(うろこ)はその□□【まゝヵ】  腸(はらわた)は泥砂(どろすな)をよく去(さ)るべし右のごとく酒にひたしたるものを酒水  おの〳〵等分(とうぶん)にして文武火(すみひ)にて半日(はんにち)ばかり煮て其上/醤油(せうゆ)を 【右丁】  少し入れ又酢(す)を少々入てまた文武火にて寛(ゆる)々半日ばかり  煮るなり前後(せんこ)凡一日ばかり煮るなり《割書:但し|》右の酢を入ること  誠(まこと)に極秘事(こくひじ)なり左すれば其/骨(ほね)すこしも歯(は)にこたへず  真(まこと)に麩(ふ)を喫(くふ)と同やうになるなり    ○肴(さかな)を寒水(かんすい)に漬(つけ)る塩加減(しほかげん)の法  魚(うを)鳥(とり)菜(な)菓(くだもの)何にても寒水(かんすい)につけ置とき其/塩(しほ)かげん  等一なり其方(そのはう)は鶏卵(たまこ)を壱つ其寒水の中(うち)へ入るに底(そこ)に  沈(しづ)むものなり其/側(かたはら)より塩を漸々(せん〳〵)に入れは加減(かけん)よくなり  たるとき其/卵(たまご)おのづから浮(うき)あがるものなり是(これ)を度(と)とし塩を 【左丁】  とゞめ其水に漬(つけ)おくなり精進(せうしん)の物は一両年も保(たも)つべし  魚鳥(うをとり)の類は月を経(へ)るくらゐは保つなり    ○諸魚類(しよきよるい)骨(ほね)まで和(やは)らかに煮る法   山楂子(さんさし)   壱味  右十/粒(りう)はかり魚(うを)を煮(に)る鍋(なべ)へ入/一所(いつしよ)に煮るときはいかやうの  魚(うを)にても和(やは)らかになる事妙なり又此山楂子は魚毒(きよどく)を  解(け)す功能(こうのう)あり    ○煮〆(にぬき)鶏卵(たまこ)の心得  たまこを煮(に)ぬきするに黄身(きみ)一方へ片(かた)よりて見くるしまづ 【右丁】  湯に塩(しほ)を少し入よく〳〵わかし玉子(たまこ)を入/手(て)を止(や)めず玉子を廻(まは)すべし    ○風流(ふうりう)の吸物(すひもの)の法  飯(めし)の焦(こげ)に山椒(さんせう)の粉(こ)す少しふりかけ焦ざる方をは又あぶりて  いかやうにも切(きり)て極上の煎(せん)じ茶に入て出すなり尤/焼(やき)しほ  少しふりかけるなり    ○同   又方  竜眼肉(れうがんにく) 弐三粒/蓼(たで)の穂(ほ)すこし加(くは)え薄醤油(うすしやうゆ)の加/減(げん)も  よくして出すこれ又/風流(ふうりう)の雅味(がみ)あるものなり    ○栄螺(さゝゐ)生にて身のぬきやう 【左丁】 【文字無】 【右丁】  栄螺(さゞゐ)生(なま)にては中々(なか〳〵)身(み)のぬけざるもの也/是(これ)をぬくには先(まつ)鉢皿(はちさら)にて  も水(みづ)を入/其上(そのうへ)へ竹(たけ)にても木(き)にても細(ほそ)きものを弐本/渡(わた)しこれに  栄螺のふたの方(かた)を下(した)へなして水(みづ)かゞみを見すれは其/殻(から)おのれと  出(いづ)るもの也其とき急(きう)に抜出(ぬきいた)すべし    ○栄螺(さゞゐ)の壺(つほ)やき心得(こゝろう)べき術  海浜(かいひん)にて栄螺を島(しま)やきとて焼(やく)なり其とき其/実(み)貝(かい)をは  なれ飛(と)ぶて五六/間(けん)にも及ひもし人にあたる時に甲(かう)にて傷付(きずつく)ること  石弓(いしゆみ)のごとし恐(おそ)るべし先(まつ)さゝゐを焼んとおもふとき塩(しほ)にても醤油(せうゆ)  にても殻(から)の中へ入れ小(ちい)さき火を甲の上に置てのち焼べし取 【左丁】  たての生(なま)のさゞゐにても飛出(とひいつ)ることなしこれさゝゐを焼(やく)秘法也    ○長命酒(ちやうめいしゆ)の方   生(き) 酒(ざけ)  壱升   氷(こほり)砂糖  百目   梅(うめ) 干(ほし)  三十 よくあらひ塩を出し置也  右三味/一所(いつしよ)に壺(つほ)に入口をよく封(ふう)し土中に埋(うづ)めおく事  五十日にして取出し用ゆるなり梅(うめ)の香(か)を発し風味/格(かく)  別(べつ)によろしく痰(たん)を治(ぢ)し気血(きけつ)をめぐらし腎水(しんすい)をまし疝気(せんき)  を治する効能(こうのう)あり 【右丁】    ○山の芋(いも)を結(むす)ふ法  山のいもを細(ほそ)くきりて暫(しばら)く塩(しほ)をふりかけおき是をむすひて  のち水につけ塩気(しほけ)をさり煮(に)て用ゆべし    ○山葵(わさび)なきとき造る法  生姜(しやうか)と 芥子(からし)と等分(とうぶん)によくすりまぜ用ゆるに其あじ  はひ山葵(わさび)にかはる事なし    ○香煎(かうせん)の方   飯(めし)のこげ  《割書:鍋(なべ)よりおこして炭火(すみび)にてあみにかけうらおもてより|よくあぶり薬研(やげん)にておろし細末にすべし》   白ごまの粉(こ) 炒(いる) 【左丁】   山椒(さんせう)の粉  右三味/細末(さいまつ)にして用ゆへし香煎(かうせん)にかはる事なし    ○雪花菜(から)/漬(づけ)の法  味噌(みそ)をつき仕込(しこむ)とき味噌桶(みそをけ)の底(そこ)に豆腐(とうふ)の粕(かす)を六  七升しきて其上(そのうへ)へ味噌(みそ)を仕込(しこみ)おき味噌/追々(おひ〳〵)つかひ終り  てのちに右(みき)の粕(から)をとり出すべし絶妙(せつめう)の好味(こうみ)となる也    ○柚(ゆ)の青漬(あをづけ)の法  青柚(あをゆ)丸ながらわさびおろしにておろし其肉(そのにく)壱升にしほ  弐合半まぜ合(あはせ)疵(きず)のなき青柚(あをゆ)を其(その)まゝ右の肉(にく)に交(まぶ)し 【右丁】  竹(たけ)の筒(つゝ)に仕(し)こみ木(き)にて蓋(ふた)をし気(き)のぬけざるやうに貯(たくはふ)べし    ○手製(しゆせい)胡麻油(ごまあぶら)の法  胡麻(こま)一/味(み)をすり鉢(はち)にて極(ごく)こまかになるまて能(よく)すり布(ぬの)の切(きれ)  につゝみ鍋(なべ)に水を沢山(たくさん)に入れすり鉢(はち)をもよくあらひて其水も  入れつよき火(ひ)にて煮立(にたつ)るときは油の湯(ゆ)の上(うへ)へ浮上(うきあが)るなり  其うきたる油をせんぐり〳〵金杓子(かなしやくし)にてすくひとりさつはり  油のなきまで取/尽(つく)しさて鍋(なへ)の水を取(とり)すて救(すく)ひたる油  はかりを煮詰(につめ)る也/水気(すいき)は自然(しぜん)といりつきて油(あふら)ばかりになる  なりこれを手製(しゆせい)ごまのあぶらといふ也    ○松茸(まつたけ)の貯(たくは)へる法  松茸の随分(ずいぶん)新(あた)らしき中(ちう)びらきなるを石突(いしづき)をよく去(さ)り  厚紙(あつがみ)を袋(ふくろ)にして其中へ入れ煙(けふり)の入らざるうやうに口をよく封(ふう)じ  常に煙(けふり)のなき所につり置(おき)入用の節(とき)取出(とりつだ)し米泔水(しろみづ)に浸(ひた)し つかふ其/匂(にほひ)失(しつ)せず生のことし    ○柿(かき)をたくはふの法  随分/新(あた)らしき柿(かき)を生(き)しぶにつけ置は一日に一つも損(そん)ずる事  なく同気(どうき)相もとむるの理(り)なるべし物類(もつるい)の感通(かんつう)すること妙といふへし    ○からみ大根(だいこ)なき時の法 【右丁】  先/常(つね)のごとく大根の絞(しほ)り汁(しる)をこしらへ何(なに)にても深(ふか)き器(うつわ)に入  塩(しほ)を少し合せ茶筅(ちやせん)にても箸(はし)にても手を止(や)めず随分(ずいぶん)つよくふりて  良(よく)しばらくふり立れは其/気(き)鼻(はな)をつくやうに甚(はなはだ)香(にほひ)よくなるなり  久しく振(ふ)るほどによろし何(なに)ほど甘(あま)き大根(たいこん)にても辛(から)くなる事妙也    ○餅(もち)にかび出ざる法  餅(もち)を搗(つく)とき餅米(もちこめ)一/斗(と)の中へ氷(こほり)ざとう壱両をとり水(みづ)の  中へ入れるときは何時(いつまで)もかひ出(いで)ざる事奇々妙々なり    ○酢(す)に白衣(かび)の生わざる法  酢 壱升の中へ焼(やき)しほを蜆貝(しゞみがい)に一/杯(はい)ほと入(いれ)おくときは白き 【左丁】  かび生(しやう)ずる事決してなし    ○弁当(へんとう)重箱(ちうばこ)等に煮(に)たる物を入れてうつり嗅(が)なく     又/夏日(なつのひ)に風味(ふうみ)かはらざる法  魚鳥(うをとり)野菜(やさい)等(とう)煮(に)たる物を弁当(へんとう)重箱(ちうばこ)に入るゝときは漆(うるし)の  うつり香(か)又は他(ほか)のうつり香(か)等(とう)にて夏日(かじつ)ことに早(はや)くくさりて  大に困(こま)ることなり其時は弁当(へんとう)にても重箱(ぢうばこ)にても煮物(にもの)を入れ  其うへに梅干(うめほし)五つ六つはかり見合に入置べし左(さ)すれは右のうつ  り香(か)をよく防(ふせ)ぐなり飯(はん)菜(さい)肴(さかな)等二三日を経(へ)てもすへる事  なし旅行(りよこう)の人または武家(ぶけ)の在番(さいはん)の人なと懐中(くはいちう)弁当(べんとう)には此法 【右丁】  欠(かく)べからずきめうの術なり    ○夏日(かじつ)酢(す)又は梅酢漬(うめすつけ)に醭(かび)を出さぬ法  夏日(かじつ)梅酢(うめず)または米(こめ)の酢(す)に筍(たけのこ)めうが生姜(しやうが)なと漬置(つけおく)事/重宝(てうはう)  なれとも四五日のうちにかび出て其/味(あしはひ)も変(へん)ずるもの也是を防(ふせ)ぐ  法は白芥子(しろげし)の細末(さいまつ)を絹(きぬ)にても布(ぬの)にても袋(ふくろ)とし酢(す)の中へ沈(しづ)め  おけは醭(かび)出ること決(けつし)てなし神秘(しんひ)の妙方なり又/夏日(かじつ)醤油(しやうゆ)  のかび出るにも此方(このはう)にてとまること妙也    ○酒(さけ)の持(もち)わるき陶(とくり)をよく酒をもたす法  酒(さけ)のもちあしく酒を損(そん)ずる陶(とくり)は夏の土用(とよう)中の節(せつ)に水を入て 【左丁】  十四五日おきて其水を捨(すて)てのち酒(さけ)を入るへし已後(のち)は幾日(いつか)  酒を入おきても酒味(しゆみ)そんする事なし    ○胡椒(こしやう)を粉(こ)にする法  胡椒(こせう)を茶わんに入ひやうたんの尻(しり)にてするべし暫時(ざんじ)に細(さい)  末(まつ)になる事妙なり是/不思議(ふしき)の妙理(めうり)はかるべからず ○諸雑門(しよざつもん)    ○墨(すみ)にて文字(もし)を書(かき)水につけ紙(かみ)はそこに沈(しづ)み文字は     水上(すいしやう)にのこり外(ほか)の紙(かみ)にておほひて其/文字(もし)をとる伝 【右丁】   明礬(めうばん)の粉   赤小豆(あづき)の粉   黄栢(かや)の粉  右三味/細末(さいまつ)して絹(きぬ)につゝみ水にしめし紙(かみ)にかゝんと思ふ所(ところ)かるく  たゝき付/置(おき)墨(すみ)をこくすり何(なに)にても書(かき)たるを上(うへ)にして水にうつし  はし先(さき)にてそろ〳〵と紙(かみ)のはしの方(かた)よりおさへゆけば書たる墨(すみ)ば  かり水(みつ)上にうかみ紙(かみ)は水底(そこ)に沈(しづ)むなり又/外(ほか)のぬれざる紙にて浮  たる文字(もし)の上におけば其かみにこと〴〵くうつるなり    ○白紙(しろかみ)を火(ひ)にてあぶれは文字(もんし)顕(あらは)るゝ法 【左丁】   上酒(しやうさけ)にて何(なに)なりとも文字(もし)を書(かき)よく乾(かはか)し置(おく)なりさて火にて  あぶれは其/如(こと)くに文字(もし)あらはるゝなり    ○白紙(しろかみ)に火をつくれはしぜんに文字/焼(やけ)ぬける方  炭火(すみひ)の上(うへ)にあるじやう【注】といふて白(しろ)き灰(すみ)【はい】をとり硯(すゞり)の中へ入て  墨(すみ)をすり此/墨(すみ)にて何にても書(かき)てよく火(ひ)にてかはかし其/文字(もし)  の処(ところ)へ火を付(つく)れは文字たけ焼(やけ)ぬけて彫(ほり)ぬきのごとく成也    ○白紙を水(みづ)につけて文字(もじ)あらはるゝ方  明礬(めうはん)を水にてとき何(なに)なりとも書(かき)て能(よく)かはかしおけば少(すこ)しも知(し)れぬ  ものなり是を水(みつ)にうかせば文字/白(しろ)くあらはる也 【注 「じょう(尉)」は、炭の形のままの白い灰】 【右丁】    ○煎(せん)じたる茶(ちや)茶碗(ちやわん)の中にて水とわける法  丹礬(たんはん)の細末(さいまつ)を少し煎(せん)し茶(ちや)の中へ入れ攪(かきまは)せば水と茶(ちや)と分る妙也    ○竹(たけ)の筒(つゝ)に蛍(ほたる)を入/外(ほか)より其/光(ひか)り見ゆる法  青竹(あをたけ)の上下に節(ふし)をのこし錐(きり)にて穴(あな)をあけ蛍(ほたる)を其/穴(あな)より入る也  何(なに)ほと厚(あつ)き竹にても光(ひか)り外(そと)にあらはるゝこと妙也/枯(かれ)たる竹(たけ)にては見えず    ○豆腐(とうふ)に絵(ゑ)を書ておちさる法  紅(へに)にても墨(すみ)にても酢(す)にてとき古礬(こはん)を少し入/何(なに)にても豆腐(とうふ)の  上に書(かく)なり煮(に)てもはげる事なし    ○歩行(ほこう)するに股(もゝ)すれするを治(ち)する神方 【左丁】  生姜(しやうが)のしぼり汁(しる)にてあらふべし忽(たちまち)治(ぢ)する神方(しんはう)也また生  姜を袖(そで)に入れてもよし    ○草花(くさばな)より紅粉(へに)をとる法  何(なに)によらず赤(あか)き花(はな)にはみな紅(へに)あるものなり葉鶏頭(はけいとう)など  よろし是(これ)をすりをろかし絹(きぬ)にてこし其/汁(しる)に松(まつ)のみどりを入  是を土(ど)なべにて煎(せん)ずれば紅粉(へに)はそこにとゞまる也是に烏梅(うばい)の  汁を見合(みあはせ)に入れ常(つね)の紅粉(へに)を取(とる)やうにしてとるなり若(もし)道具(たうく)  なければ金(なか)どふしの中に羽二重(はふたへ)をしき是(これ)へ汁(しる)を入て水を  たらし紅粉(へに)を取(とり)用ゆるときは常(つね)の酢(す)にてもとき古礬(こはん)少し入 【右丁】  絵(ゑ)の具(く)にもつかふなり    ○貝(かい)るい象牙(さうげ)角(つの)るいに文字(もし)又は絵(ゑ)を生(うま)れつきの     やうにあらはす妙方  せしめうるしにて何(なに)なりとも心のまゝに書(かき)てよく乾(かは)かし生酢(きす)に  廿日はかり漬(つけ)おき酢(す)をさりうるしをみがき落(おと)せはその漆(うるし)の  あと自然(しせん)と文字(もし)高(たか)く鮮(あさやか)に見え天然(てんねん)の文字(もじ)のごとくみゆる也    ○光沢布(くわうたくふ)の法  浅黄木綿(あさきもめん)一尺に切(き)り水にそゝき石灰(いしはい)の気(き)をよく去(さ)り乾(かはか)し  十文字にしんしをはり其上(そのうへ)へイホタラウをうすく平(たひ)らかにふり 【左丁】                    雅喬【印】 【挿絵】 【右丁】  かけぬるき火(ひ)にてそろ〳〵あぶれは蝋(らう)とけて木綿(もめん)一面(いちめん)にしむ也    ○即席(そくせき)焼印(やきいん)の術  白き板(いた)に墨(すみ)にて何(なに)なりとも文字(もし)を書(か)き其上へ艾(もぐさ)をその文  字の通(とを)りにおきそれに火(ひ)を付けれは艾(もぐさ)こげて跡(あと)焼印(やきゐん)如し妙也    ○丸竹(まるたけ)の節(ふし)をぬく術  先(まつ)初め二(ふた)節(ふし)ほどぬきさりて其中へ水を入/小石(こいし)を弐つ三つ  一所に入/竹(たけ)を立(さて)【ママ】にして大地(たいち)をつけば何(なに)ほど太(ふと)き竹にても節(ふし)  こと〴〵くぬけること妙也    ○虱(しらみ)紐(ひも)の法 【左丁】   水銀(みずかね)    六匁《割書:アラビヤコンにて|よく和したるもの也》   苦辛(くしん)    壱両   烏頭(うづ)    半両   百部根(ひゃくぶこん)   弐匁   雄黄(おわう)    弐匁  右五味水見/斗(はから)ひに入白/木綿(もめん)壱尺をたてに十六に切り  右の中へ入/猛火(つよきひ)にて煮(に)つめる也    ○懐中(くはいちう)蝋燭(らうそく)の法  木綿(もめん)糸(いと)十筋ばかり合(あは)して是をしんにして唐蝋(とうらう)五拾匁 【右丁】  うこんの粉弐匁右/鍋(なべ)に入/煎(せん)じ粕(かす)をさり鉢(はち)に入少し  さまし其中へ右の糸(いと)を入れいまだ乾(かは)かざる中(うち)に渦巻(うづまき)にし用    ○花(はな)の露(つゆ)の法  大茴香(おほういきやう)     三匁  香丁(かうてう)      三匁五分  山奈(さんな)      壱匁五分  甘松(かんせう)      壱匁五分  いばらの花   拾匁  白(びやく)だん     弐匁五分 【左丁】  右六味/極(こく)末(まつ)にし美(み)りん酒(しゆ)をすこしふりかけ能(よく)しめしたる  ものを渋紙(しぶかみ)につゝみ一時(ひとゝき)ばかり其儘(そのまゝ)かまし置取出し晒(さらし)もめん  につゝみ蘭曳(らんびき)の中段(ちうたん)に入おき下段へは水を十分に入れ猛(つよき)    【ランビキ 薬油や酒類などを蒸留するのに用いた器具】  火(ひ)にて焼(やく)なり上段の水は度々(たび〳〵)に仕(し)かゆべし    ○天井(てんしやう)の絵(ゑ)を写(うつ)しとる術  高(たか)き天井の張(はり)付(つけ)の絵(ゑ)または文字(もし)にても下(した)にて写(うつ)すに  一筆(ひとふで)〳〵上(うへ)を仰(あを)げはうつし難(かた)く是を写(うつ)すには鏡(かゝみ)を壱□【面ヵ】  下におけば是へ天井の絵(ゑ)にても文字(もし)にてもよく写(うつ)るな□【りヵ】  是を見て書(かき)写(うつ)すべきなり誠に妙なり 【右丁】    ○蓮根(れんこん)をかたくし彫物(ほりもの)などせらるゝ法  蓮根(れんこん)と牛蒡(ごばう)根と一所に清水(みつ)にて煎(せんじ)る也十分に熟(じゆく)□【しヵ】  たるとき取(とり)出し日に干(ひ)す也/乾(かは)くにしたがひて蓮根(れんこん)次第に  かたくなる事妙なり是(これ)を以て随意に彫物(ほりもの)すべし    ○絹布(けんふ)にどうさ引(ひか)す墨(すみ)ちらぬ法  生姜(しやうが)のしぼり汁(しる)又/糯米(もちこめ)の粉(こ)を少(すこ)し墨にすり込(こ)むときは  墨ちらず暖簾(のうれん)などこれにて書べし    ○銅(あがゝね)【あかゞねヵ】道具(どうぐ)垢(あか)付(つき)穢(よごれ)たるを落す法  梅酢(うめす)にてみがきとの粉(こ)にてこすれは新(あた)らしき器(うつは)の如(ごと)くなる也 【左丁】    ○割(われ)たる道具(だうぐ)つきやう  麩(ふ)を板(いた)の上におしひらめあめいろになり堅(かた)まりたるを粉(こ)に  して貯(たくは)へおき道具(どうぐ)われたるとき水にてねりつくべしふたゝび  はなるゝことなく漆(うるし)つぎ同やうになること妙也    ○遠路(えんろ)を歩行(あるき)て足いたまざる法  遠路(とをみち)を行ときは足(あし)のうらと甲(かう)とに胡麻(ごま)の油をぬれば  いたまず又/洗足(せんそく)して後(のち)塩(しほ)を少(すこ)しつばにてとき足(あし)のうらと  甲(かう)とにぬりて火(ひ)にてあふるべし斯(かく)すれは足いたむことなし    ○足(あし)に豆(まめ)の出来(でき)ざる妙方 【右丁】  旅(たび)だちするに硫黄(いわう)木二三枚/懐中(くはいちう)すれば足に豆(まめ)のできざること妙也    ○終夜(よもすから)寝(ね)ずして眠(ねふた)からざる法  ねぶりに堪(たへ)がたきとき鼠(ねづみ)の糞(ふん)を紙(かみ)につゝみ臍(へそ)にあて張付(はりつけ)おく  べし眠らざる事妙なり    ○慈石(ししやく)の説(せつ)  磁石(ししやく)を試(こゝろみ)るに一つの石(いし)に自然(しせん)と六/合(かう)の位(くらゐ)を備(そな)へたる物と  見えたり《割書:上下東西南北|これを六合といふ》これをこゝろみるに針(はり)の鋒(さき)に磁石の  北(きた)をすり付/針(はり)の耳(みゝ)に慈石の南をすり付其/針(はり)にて燈心(とうしん)の  横(よこ)につらぬき水に浮(うか)むれは針先(はりさき)北(きた)を指(さ)す也又/針先(はりさき)に 【左丁】  磁石の東を磨(す)り耳(みゝ)に西をすり付れは水にうかすに東西に  よこたはりて東(ひかし)をさす也磁石の坤(こん)と艮(こん)をすれば角(すみ)どりに  うかむ也/巽(そん)乾(けん)も又同し  磁石の方角(はうがく)をしるには時計(とけい)をもつて石(いし)の周(めくり)を触(ふれ)めくら  せば同気(とうき)相/求(もと)めて北の所にて羅経(らけい)の針先(はりさき)むかひ南の所  にて針の岐(また)むかふにてしるなり○本草綱目(ほんさうこくもく)に宗(さう)■(けい)【奭ヵ】か説を  丙(へい)の位にかたよるといへるは針先(はりさき)を丙(ひのえ)の方にすり付針の耳を  壬(しん)の方にすり付たる針にて考(かんが)へたるとみゆ    ○薫物(たきもの)の方 【「慈石」はママ】 【右丁】   沈香(ぢんかう)      四匁   白檀(ひやくだん)      弐匁   霍香(くはつこう)      壱匁   甘松(かんせう)      三分   なべ炭(ずみ)     壱匁   焼(やき)しほ     五分  右六味/極(こく)細末(さいまつ)煉蜜(ねりみつ)にて調合する也    ○又方   沈香(しんかう)      弐匁 【左丁】   丁子(てうじ)      壱匁五分   白檀(ひやくだん)      五分   甘松(かんせう)      壱匁   なべ炭(ずみ)     壱匁   焼塩(やきしほ)      五分  右六味/極(こく)細末(さいまつ)練蜜(ねりみつ)にて調合するなり    ○又方 《割書: |梅花(ばいくは)と号する也》   沈香(しんかう)      拾匁 【右丁】   丁子(てうじ)      五分   甘松(かんせう)      壱匁   白檀(ひやくだん)      壱匁   欝金(うこん)      三分   薫陸(くんろく)      壱分   杉(すき)のけし炭   三匁   焼塩(やきしほ)      五分   右八味 極(こく) さいまつ練蜜にて調合するなり    ○薫物(たきもの)を調和(こしらへ)する練蜜(ねりみつ)の法 【左丁】  蜜四拾匁に水/小茶(こちや)わんに一はい入/一昼夜(いつちうや)ばかり鍋(なべ)にて  そろ〳〵と煎(せん)じ冷(ひや)して壺(つほ)に入(いれ)口(くち)を紙(かみ)にてよく封(ふう)じたくはへおき  年月(としつき)をふりほど能(よく)熟(しゆく)してよしとす一切の薫物(たきもの)是を以て  調合(てうこう)すべし香気(かうき)をますもの也    ○花生竹(はないけだけ)のきりやう  花生竹(はないけだけ)を切るにとかくゆがみ安(やす)きものなり是(これ)をゆがまぬやうに  きる法(はふ)は厚(あつ)き紙(かみ)壱まいを弐つに折(をり)て墨打(すみうち)しておきさて  此/紙(かみ)を随分(すいぶん)むらなきやうによく〳〵糊(のり)を付て竹(たけ)へはり付この  紙の墨打(すみうち)のたがひなきに挽(ひく)べしゆがむ事なし 【右丁】    ○朱(しゆ)を以(もつ)て水銀(すいきん)を製する方   極製朱(こくせいしゆ)        半斤   けやき灰(ばい)    《割書:細末|》 壱合   シャ〳〵キ《割書:ノ》灰 《割書:同 |》 壱合   寒水石(かんすいせき)     《割書:同 |》 三両   明礬(めうばん)      《割書:同 |》 壱両   燈(とも)し油        五勺  右六味ともし油をもつて先(まつ)朱(しゆ)を煉(ね)り是を厚(あつ)き紙(かみ)に  膏薬(かうやく)をのはす如くに延(のば)し微火(びくは)にて少しあぶりあら乾(かわ)き 【左丁】  したるものを鋏(はさみ)にて細(こま)かにきり釜(かま)に入るなり尤釜の底へ  けし炭(すみ)を壱合あまりしき其上右六味のものを追々(おひゝ)に  入れて第(たい)一の上へは明礬(めうばん)と寒水石(かんすいせき)とを多分にふり  かけ置也文武火にて次第(したい)につよき火にして焼也   右/水銀(みづかね)釜(かま)は京都市中にはなきものなり    伏見街道二の橋北詰東側火鉢屋安兵衛方にて此釜を製す   朱座 京都烏丸丸太町下ル町    極製朱 《割書:壱両|》代三匁二分  光明朱 《割書:同》代壱匁八分    本朱  《割書:同 |》代壱両弐分  右定直段古今高下無之事 【右丁】    ○辰砂(しんしや)を以て水銀(みつかね)を製する法  右/朱(しゆ)にて水銀を製(せい)すると同断なり    ○朱(しゆ)がら又/古(ふる)き朱器(しゆき)等を以て水銀(みつかね)を製する法もあれとも     少し口伝(くてん)ありて筆紙(ひつし)に述がたし仍て略之    ○■■(きし)乙(をつ)の 符(ふ)の説  世上に疫病(やくびやう)のまじなひとて■■(きし)乙(をつ)の三字を紙(かみ)にかきて門戸(かど)に  はる事あり群談採余(くんたんさいよ)に出たり唐土(もろこし)豫章(よしやう)の南に粟渡(そくと)と  いふ処あり宋(さう)の乾道(けんだう)八年の春一人の僧(そう)きたり渡守(わたしもり)に告て曰  追付/此処(こゝ)へ異相(ゐさう)なる者五人来るへし彼等(かれら)を渡しなば禍(わざは)ひ 【左丁】  あるへしとて此符を与(あた)へ去る渡守(わたしもり)怪(あや)しく思ふ所へ果(はた)して黄(き[なる])□【衫(ころも)】を  着し怪(あやし)き籠(かこ)を負(おひ)たる者五人きたりて船にのらんとせしかばすはやと思  ひ拒(こば)みて渡(わた)さず急(いそ)き渡らんと争(あらそひ)けるうち彼(かの)符(ふう)を出し見せしかは恐れ  まとひて各(おの〳〵)笈(おひ)をすてゝ逃(にけ)去(さ)りたり其/笈(おひ)を開(ひら)き見るに小き棺(くはん)を  数百入たりわたし守其/棺(くはん)を残らす焼(やき)捨(すて)たりさて其符を書て人々に  伝(つた)え与ふ其後(そのゝち)此わたしの南にあたる地は疫病(ゑきひやう)はやりて人多く損(そん)ぜる  事なりしに北に当り豫章(よしやう)の方は一人も病(やめ)る者なし夫より所々に  伝(つた)はり此/符(ふう)を門戸(もんこ)にはり付るなり此■■(きし)乙(をつ)の三字この  符(ふう)に出たるのみにて外に訓語(くんご)もなく是すなはち鬼(き)を 【右丁】  避(さく)るの理(ことはり)にてもあるにや 【鼎左】秘録附録《割書:終》             三条通柳馬場東角  御免嘉永四《割書:亥》年十二月           京都書房堺屋仁兵衛梓  嘉永五《割書:子》年六月刻成 【左丁】 【文字無し】 【右丁】  避(さく)るの理(ことはり)にてもあるにや 鼎左秘録附録《割書:終》             三条通柳馬場東角  御免嘉永四《割書:亥》年十二月           京都書房堺屋仁兵衛梓  嘉永五《割書:子》年六月刻成 【左丁】 【文字無し】 【裏表紙】