（内容）「江州伊吹山艾」の由来譚。浅井姫が毒に当たり観音菩薩の告で灸治をし平癒する物語。題名の「團十郎蓬艾」のことは出て来ない。
（上）江州浅井郡伊吹山の武士浅井太郎は一人の姫を持ち、狩を好み小白という犬を愛す。伊吹三郎が姫に心を掛ける。浅井姫は描画を好み、猿・兎・羊・龍が得意で襖に彩色して朝夕の慰めとする。父は褒めるが、継母阿久里は絵描きなど無用と憎み何とかして失おうと思う。阿久里は伊吹三郎に通じ、太郎を殺して跡式を奪おうと持ちかける。犬の小白が聞いている。阿久里は夫が石山へ詣でた留守に、父の言い付けと言って姫を縛らせ、嘘泣きして引っ立てさせる。継母の手の者が姫を柱に括り首を討とうとする。姫が石山の観音に「急難を救い給え」と祈ると、襖に描いた竜虎が絵を放れて猛り掛かる。阿久里と手下は恐れて逃げる。太郎が石山から帰り物陰で見ると、小白が三郎の喉に食い付き殺す。阿久里が直ぐその首を切ると、小白の首は縁の下に忍ぶ手下団平の頭に食い付き殺す。太郎は「すべて知っていた。許せぬ」と阿久里を刺し殺す。阿久里は「かねやすの店の絵（経穴を示す看板。図法師）のように胴腹に穴が空いた」と切ながる。
（下）太郎は小白の志を感じて犬神として祀る。三郎の悪念は伊吹山の悪鬼となり、礫を投げ付け毒気を吹き掛ける。村人「敗毒散では効くまい」。礫は大小とも千切って掴んだ団子状の痕があり伊吹山の掴み石という。浅井姫は悪念に当たり1ヶ月余も苦しむ。太郎の夢に石山観音が現れ「端午の明け七つに伊吹山の蓬を取り灸治すれば病悉く平癒すべし」と告げ給う。観音の告の通り5月5日の未明に村中で伊吹山の蓬を取り艾にする。時珍の『本草綱目』に「灸点の運気にて眷養を補い、気鬱する者は火気にて発散す。血の減りたる人は経絡を温めて血を巡らす」とある。今、艾屋の看板に「江州伊吹山艾」とするのはこの謂われである。浅井姫は菩薩の教えで灸治し忽ち平癒する。以後近辺の人々も灸を据えて息災となる。子どもに据える時、豆煎りをするのは豆になるようにとの謂われで、大人も豆になるように、二八月には灸を絶やさすべからず。村中の家々で灸をする場面で終わる。
日本古典籍総合目録データベース・最終アクセス日：2018年1月31日
（木村八重子）（2018.1）
（紹介）「『日本蓬艾始』について」（小池正胤、叢12号、平成元年2月）1丁表の口上に「巳のとしの新板」とあり。解説中に本書の梗概を記す。
